モンゴル訪問記 8.バトトルガ大統領
その後、モンゴル国第5代大統領、ハルトマーギーン・バトトルガ氏(56歳)との面会のため、国会議事堂へ向かった。大統領の執務室は国会の中にある。
議事堂への入場検査は実に厳格であり、我々外国人はパスポートの提示が求められる。入口では飛行機搭乗チェックと同様の身体検査がある。そして3階にある大統領執務室前でも、再び同様のチェックを受ける。さらに手荷物もすべてロッカーに預けることになった。カメラもレコーダーも一切持ち込み禁止である。後ほど専属のカメラマンが撮った写真の中から許可の下りた写真を数枚受け取ることができる。SNSでの発信は不可との但し書き付きであった。なぜかと言えば、動画ですら本人の過去の映像や音声を加工してニセのニュースが作られ、流されることがあるからである。現代はここまで注意をしなくてはならないのである。
執務室に通された我々は、少し遅れて入室されたバトトルガ大統領のぶ厚く大きな手でしっかりと握手を受けることになった。
大統領はモンゴル相撲の元選手であり、サンボ(ロシアの格闘技)ワールドカップのチャンピオンでもある。そう言えば最初のモンゴル出身の関取となった旭鷲山(きょくしゅうざん)は帰国後、国会議員となり国務大臣になっている。かつての横綱・朝青龍は将来大統領選に出るというウワサもあり、この国では武道に秀でた人物が出世することが多いようである。
今回、大統領と面会できたことは幸運であった。せいぜい挨拶をしてくるだけと思っていたところ、いきなり「あなたのことはよく分かっています」と言われ、椅子をすすめられ、お茶まで出されることになった。しかも席に着いてから40分以上様々な問題についてお話をさせて頂き、大変驚かされた。
大統領はまず、執務机の左角に置いてあるタテヨコ40~50センチの青銅の馬の像を指さし「これは安倍総理からのプレゼントで、いつもここに飾ってあります」と言われた。
私は改めて今回の訪問のいきさつを述べ、スポーツ交流を切っ掛けに、人の交流を重ね、経済交流をさらに発展させたい旨の話をした。
都市間交流について大統領は、「ウランバートル市は首都であり、すでに日本を含め10ヶ国ほどの市と友好提携をしているため、9つあるウランバートルの行政管区のうちのハンオール区を考えてはどうか」と提案された。
ローカルな問題について直々に提案を受け恐縮してしまった。ハンオール区は東京で言うなら世田谷のような高級住宅地で、しかも大統領の出身地区であり、ウランバートル市の新市庁舎の建設予定地でもあり、近く新空港計画を含めた大規模な開発計画のあるエリアであることを後ほど知ることとなった。こちらとしても特段、具体的な条件を持っていたわけではないので、今後ウランバートル市とも御相談の上、話を進めさせて頂きたいと考えている。
バトトルガ大統領との会談はそこで終わらず、さらに広範な話題へと広がっていった。日本とモンゴルは共にロシアと中国という個性の強い大国に挟まれた立地条件にあり、相互に協力関係を高めてゆくことは両国の今後の発展にとって有効である。ことにモンゴルは石炭、銅、ウラン、モリブデンはじめ、多くのレアメタル、レアアース等の豊富な地下資源に恵まれた国であり、これから資源の入手先の多元化を図る我が国にとって重要な存在となっている。
大統領は型どおりの儀礼的挨拶をはぶいて、私達の前にコンピューターのパネル板のようなモノを差し出し、「ICチップを含め、こうしたものが我が国ですでに作られ、日本に輸出されている」と言われ、高次元の経済交流の希望を述べられた。ことに現在モンゴルで多く使用されている日本の電気自動車の燃料電池の再生事業において、現況、中国が間に入っているものを日本と直接取引ができるようにしたいと語られた。さらに国際的なゴミ処理システムの必要性を取り上げ、海のない国でありながらビニール袋やペットボトルの処理等海洋ゴミの処理対応にまで話が及んだ。
私のことを国務大臣と勘違いしているのではないかと思えるほど、具体的な問題について情熱的に語られる大統領の姿にこちらも心打たれるものがあった。
大統領がその週に面会される外国人は私が最後ということでもあり、そのせいで大サービスとなったのかもしれない。週明けにはアメリカのワシントンまで飛んで、あのトランプ大統領と会談する予定とのことであった。
ロシアと中国にはさまれながら、欧米とも上手に付き合っているバトトルガ大統領の政治的手腕に学ぶべき点は多いと思われる。 (つづく)
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