岡崎に宇宙への窓を
岡崎市にはご存じのように明大寺の山頂に「自然科学研究機構」の3分野の研究所(分子科学、基礎生物学、生理学)がある。そうした縁から、全国市長会理事会の要望活動で上京した折に、三鷹市にある「自然科学研究機構」の国立天文台に視察に出かけることになった。
現在すすめている東公園の整備の一環として、動物園、植物園、恐竜を配した森の周回ゾーンに「宇宙」を付け加えることも構想のひとつにしたいと思っているからである。「国治(くにはる)天文台跡地と用地的に利用可能なスペースの両方を使って、宇宙をテーマとした施設を造ることができないか」ということを私は個人的に考えている。
東公園において、自然の森、草木の美しさと郷土の歴史を楽しむエリアと動物園、恐竜に加えて、ビッグバンから始まる宇宙147億年の歴史、太陽系46億年、地球における38億年の生命進化の過程を全体像としてとらえるような施設整備を将来的に進めてゆきたいと考えている。
JR岡崎駅前に想定されていた子供科学館の建設を取り止めたのは、渋滞と混乱を心配する地元の声と、駅前スペースの交通機能としての利便性を考えてのことであるが、子供達の宇宙への目を開くきっかけとなる施設(プラネタリウム等)は必要と思っていた。
このところの施設の映像関連の技術革新には目覚ましいものがある。名古屋市科学館のプラネタリウム(168億円)のように世界最高のものを目指すのではなく、あくまで宇宙に対する子供達の関心を高めるための施設として考えるならば、かなり安価に整備することができるということを聞いている。
さらにこの施設には図書館、博物館機能を併設し、都市化により周囲が明るくなり過ぎたために廃止された国治(くにはる)天文台に替わる新たな天体観測施設も加えたいと考えている。これも宇宙や天体への手ほどきを目的とする程度のものならば、天体観測機器の技術革新によって、小規模なもので十分な施設ができると考えるからである。
(岡崎市洞町にあった国治天文台の概要。『リバーシブル』1982年8月号より)
国立天文台を目指して東京の中心地区の喧噪を抜け、中央線を進むうちに、緑の風景と共に武蔵境の駅に到着した。「国立天文台・三鷹キャンパス」と言うだけあってまるでアメリカの大学を思わせる、緑の木立の多い、歴史を感じさせるたたずまいであった。この国立天文台は東京天文台を前身とし、大正時代に麻布飯倉より三鷹に移転してきたという。構内には大正期の様式を残した古めかしくも格式ある建物が並んでいる。
到着後、事務所棟で施設の概略の説明を受けてから、個別の施設見学に向かった。日本最大のモノという屈折式望遠鏡(口径65センチ)に向かう直線の並木道は〝太陽系ウォーキング〟と名付けられている。100メートルの沿道上には太陽系が140億分の1で表現されており、太陽から土星までの模擬宇宙空間に水星、金星、地球、火星、木星の各惑星の縮尺模型が解説パネルと共に順番に並べてあった(海王星と冥王星は800メートル先になってしまうため、近年発見された小惑星と共に最後にまとめて表示されていた)。これは惑星間の距離感と惑星同士の大きさの比較を実際的に体感でき、大変わかりやすいものである。
長男が小学生の頃、夏休みの宿題としてB紙上で同様の天体図形を作成したことがあり、大変なつかしい思いがしたものである。100メートルを200歩で歩くとすると、1歩は700万キロになるそうである。もし同様のモノを造るならば、御協力頂けるということであり、費用も大してかかりそうではないためぜひ実現したいと考えている。
今回、国立天文台を訪れた一番の目的は、この地にできた「4次元デジタル宇宙プロジェクト」(4D2U)による宇宙の映像を確かめることであった。現在東公園に本格的な天文台を築く計画はないが、できることならば宇宙空間の様子を目で見て学べる映像シアターを造れないものかと考えているからである。
このプロジェクトが制作した「4次元デジタル宇宙コンテンツ」は、太陽系を始めとする天体や天体現象をタテ、ヨコ、タカサの三次元に時間を加えた四次元の空間で目で見て理解できるようにした映像システムのことである。最新の観測装置から得られるデータやスーパーコンピュータによるシミュレーションのデータを科学的に立体映像表現することによって、まるで宇宙船に乗って宇宙旅行をしているかのように、宇宙の姿を目の当たりにできる。このソフトウェアを使うと、太陽系を始め各銀河系など宇宙の多層構造を映像的に知ることができるのである。
こうしたソフトは、愛知万博の時に公開されたように海中、空中、昆虫や鳥の目から見た風景など実に多岐にわたったものがあり、季節や時期に応じて多様な応用もでき、もしこうした施設を岡崎に造ることができれば研究、教育はもちろん、社会の様々な活動で利用できるものと考えている。
さてその日は、私が何気なく「子供の頃、少年サンデーの正月号の表紙に描かれた土星と鉄腕アトムが飛んでいる絵の土星の輪のイメージが今も強く残っている」と言ったことで、「それでは今日は、まず現在観測されている宇宙の果てまで行って、それから土星を探索してみましょう」という話になり、映像ショーが始まった(行き先は選択設定できる)。このドームシアターは定員40名程であり、1日4回・毎月3回公開されており、事前申込み制で運営されている。
シアターで3Dメガネを手渡され、シートに座った私達はそのままロケットの操縦席についたアストロノーツ(宇宙飛行士)となるのである。ディズニーランドではないので、座席の震動や発射音こそないものの打ち上げの臨場感は十分である。
順番に各惑星が立体的に近づいてくる。太陽系を抜け、さらに外側の天の川銀河を後にすると、そこには大小様々な銀河群が天空一杯に広がっており、我々の生存空間、認知空間というものがいかに矮小なものであるかを思い知らされる気がした。真っ暗な空間は、まだ観測が進んでいないエリアと未解明の暗黒物質(ダークマター)で満たされた部分であるそうである。
最後にガス惑星である土星をめぐるコースに入った。土星の表層の目玉とシマ模様は有名であるが、近くで見る映像はまた興味深いものがある。ことに、細かい(数センチから数メートル)氷の集合体である土星リングを間近で見ながら中を通過する様は圧巻であった。
なおこのムービーは天文台シアターでの上映の他、ウェブからダウンロードして個人的に利用することができるようになっている。
今回仮想訪問した土星は、鉄腕アトムと言うよりも、12月生まれのヤギ座である私の守護星がサターン(Saturn、土星)であるという方が私の趣向に合っていると言っておきたい。
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