おまけ達の時代
ネコのミーちゃんが17歳9ヶ月で亡くなって一ヶ月近くになる。
これまで多くのお悔やみの言葉を頂き、ありがとうございました。ちゃんとお花と手紙を付けて送り出しました。
夜中に2~3時間おきに私を起こしてエサをねだるネコをうとましく思ったり、老ネコのエサ代が意外と高くつくこと、その他様々に世話のやけることを面倒に思ったりしたこともあるが、彼女がいなくなってみて、それらのことが自分の生きがいの一つになっていたことに気づかされた。
人や動物の死に直面する度に思うことであるが、今までそこにいることが当たり前であった者がいなくなると、その空間の空虚さというものが一層きわ立つものである。
今までミーが好んでたたずんでいた辺りの後ろ壁面に、実物大の写真のコピーを貼って朝夕話しかけている。その姿を見て女房は「バカみたい。それは老人性痴呆症の前触れよ」とか「全く、女々しい」などと言う。「お前が死んだ時には間違っても写真など飾ったりしないから安心してくれ」と言ってやれば、「私より7つも年上のくせに、私より長生きしようなんてアツカマしい」と返ってくる。とは言いながら、犬猫が亡くなった時に、黙っていても供花を用意してくれるのがこの人である。
こんなことを書きながらネコの写真を見ていると、古いイタリア映画を思い出す。アンソニー・クインの出世作の一つでもある『道』である。フェデリコ・フェリーニ監督による、古めかしい白黒の映像と、ニーノ・ロータの哀愁に満ちた音楽がなつかしく感じられる。
アンソニー・クイン扮する大道芸人ザンパノは、粗野な乱暴者であり、大道芸の相方として知恵遅れのジェルソミーナという娘を雇って旅から旅の生活を続ける。そしてある時、ジェルソミーナにやさしくする「キ印」と呼ばれる男をケンカの末に殺してしまう。それまで奴隷並みの扱いにも健気に耐えてきたジェルソミーナは泣くばかりで仕事の役に立たなくなり、ザンパノに捨てられることになる。それから時が経ち、ザンパノは旅先の港町でジェルソミーナが4~5年前にすでに亡くなっていたことを知らされる。当たり前のように近くにいた明るい娘を失って、初めてその価値に目覚めたザンパノは孤独の悲しみの中に打ちひしがれるという物語である。ジェルソミーナ役のジュリエッタ・マシーナのくったくのない子供のような笑いが印象的な映画であった。かつて「あの女はお前に似ている」と嫁さんに言って、猛反撃をくらった思い出の映画でもある。
淀川長治氏ではないので、本題と関係の無い映画談義はここまでにして本題に戻る。
そもそもオマケの立場にあったのは後から家族に仲間入りした三匹の捨てネコ、ピーコ(白黒)、プースケ(白茶)、トラオ(キジトラ)のことである。
これまで、先般亡くなったミー(三毛)、昨年死んだ犬のアル、そして行方不明の猫キック(白黒)の先輩達に気兼ねしながら生きてきたような三匹のネコ達の態度が急にデカくなったような気がするのだ。
私としては、今までどの犬や猫に対してもすべて自分の子供のように接してきたつもりであるが、動物の世界には彼らなりの序列があったようである。
それまで年長ネコのミーのいる私の部屋に他のネコ達は滅多に入ってこなかったし、侵入でもすればたちまちミーの本気攻撃を受けることになった。そのせいか、いつもミーと一緒にいる私にもあまり近づいてこなかったのである。
ところがアルとキックに続き、ミーの姿が見えなくなってから彼らの行動が変わってきた。横になっている私に近づいてきて体の上に上がってきたりするのだ。彼ら三匹のネコは、自分達は後から来たアミちゃん(犬)よりも上位であり、「いよいよ我らの時代が来た」と思っているのかもしれない。〝おまけ達の時代〟の到来、いわば世代交替である。
これまでもそうであったが、飼っていた動物と、その頃の時代というものが妙にリンクして記憶に残っているものであり、今回家の動物達の変化の様子を見るにつけ、また時代が一つ変わったということをつくづく感じている。
思い出しついでにミーのことをもう一つ書く。昨年亡くなった義母が生前、私が出張中のミーの様子をこんな風に話していた。
「ヤっちゃんが家にいない時、夜ミーちゃんが2階から階段をトコトコ下りてきて、下の部屋を見渡してガッカリしたように戻っていく姿を見ると何だかかわいそうになっちゃうわよ。後でのぞいてみると、あなたのベッドの上で一人(?)で寝ているのよ」とのことであった。(今いるネコ共は気まぐれな奴ばかりで、誰もこんなことをしない。)
私が家に帰った時に玄関まで迎えてくれるのがアル(犬)とミー(猫)であっただけに、最近一層自分がザンパノになったようなさみしさを感じている。
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