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2014年11月24日 (月)

市長会・蘭仏視察記 6.ローヌ・アルプ農業会議所とコンテ・チーズ

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フランスの農業会議所
 EUの中央に位置し、広大な面積を持つフランスにおいて、農業は雇用面において重要な産業の柱の一つである。国内政治におけるフランス農業団体の発言力は強く、時折テレビのニュースで見る、町中でトマトをぶちまけたり、牛乳を流したりするストライキのスタイルはけっこう過激である。
 フランス農業会議所は、農業協同組合が主体となって1924年に設立された組織である。農業会議所は全国に代表部署を設けており、今回我々が訪れたローヌ・アルプ地域の農業会議所では、中部フランスのアン県、アンデシュ県、イーゼル県、オートサヴォア県、サヴォア県、ドローム県、ローヌ県、ロワール県の8つの県を対象に活動している。地域全体としての面積、人口も大きく、経済規模も全仏第2位である。

 ここローヌ・アルプ地域農業会議所では、地域農業の発展計画や作物の選定、栽培方法の指導を行っている。ことに地域の各農家をサポートして育成指導することによって地域農業のブランド化による経営の安定と農業の活性化を目的としている。さらに他地域の会議所との連携を高め、幅広い活動も行っている。
 また、農業会議所は、農業振興のために、EUや国、各地方自治体に対して、政策的要請や専門的見地からの政策指導を行っている。そのためローヌ・アルプ地域では、農家の代表者によって構成される議員400人が、各地域や団体から選出されている。さらに農業経営の個別アドバイザーとしての専門家が700人程働いている。それらの人々が、個々の農家の相談に乗ったり、地方自治体に専門的アドバイスをしているという。
 全体の15%くらいが事務職であり、残りは50ほどある支店で農業指導に当たっている。また他に研究・実験を行う部門もあるそうだ。
 フランスでは、国が直接農家に対してアドバイスをするようなことはやっておらず、別の独立したプロ集団として農業会議所が指導的役割を担っている。
 国は直接的に関わっていないが、運営経費の半分を負担している。他はEUとの協定による資金や、各地方自治体との契約による指導管理業務に対する収入、それから個別の農家に対しアドバイスを行うごとに受け取る報酬などが運営費となっている。
 財源の50%を国の税金で充当しているため、大きく二つの任務を担っている。第一は様々な決定機関に対して、農業関係者の代表としての意見を伝える。第二は、よその国ならば政府機関が行うような農業の管理指導の代行と関連するデータや管理記録なども併せて管理保管することである。
 フランスでは、こうしたプロの農業機関のような組織が伝統的に重要な役割を果たしており、長い間、このような機関が国と一体化してこの国の農業を推進してきたという歴史がある。FNSA(日本でいう農協)や若手農家組合といった団体もあり、組合が伝統的に強固な力を持っている。そうした組織の代表が評議員として、国や地方自治体に対して政策的意見を述べてきている。

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生産物の高付加価値化
 また、現在における重要な仕事の一つに、各農産物の品質を向上させるということがある。ヨーロッパはEC、EUとなり関税障壁がなくなったために、各国の生産物が自由化により相互流入するようになった。そのため品質の良いものでなければ生き残れなくなっている。よって商品の高付加価値化が必要となってきている。
 特にローヌ・アルプ地方では、AOCという品質並びに呼称の保障制度があり、個々の製品が作られるべき地域、またその製品の原材料の仕様等が細かく規定されており、それを守って生産されたもの、あるいは製造されたものにしか、EUが認定したAOCマーク(日本で言うJISマークのようなもの)の使用が許されないシステムとなっている。
 ローヌ・アルプ地方は60%が山岳地帯にあり、平地の農業環境の整った地域と同じ生産物で競った場合不利となるため、近隣の市場にターゲットをしぼって、新鮮さと希少さで勝負する戦略で農業を行っているという。
 幸い、リヨンを中心としたこの地方の人口はフランスでは第2位となるため、そうした商品の高付加価値化に成功している。さらにインターネットを使った通信販売や車で産地まで来るお客を対象にした、ドライブイン的な店も用意している。
 また風光明媚なこの地方の景観に惹かれて足を運ぶ夏のハイキング客や、冬のスキー客などの観光客向けの農産物販売も考えられている。いわば、農産物の工業製品化のような工夫がなされているのである。
 こうした数々の努力によって、価値の高い商品を競争力のある価格で消費者に提供することに成功しているのである。

 また、ローヌ・アルプ地方においては、新しく農業を始める人々の半分が農業従事者の子弟ではなく、初めて農業に関わる人達であるという特徴がある。そうしたチャレンジ精神のある若者を養成して、その後も指導を続け、一人前の農家に育てるためのシステムを持っているという。さらに十分な資金を用意できない者には、土地については会議所が購入して、低金利の長期返済で貸し与えるため、若い人もチャレンジのチャンスが与えられることになる。もちろん返済すれば土地は個人の持ち物となる。このようなことも、会議所の仕事として行われている。

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コンテ・チーズ
 フランスを代表するチーズの一つである「コンテ・チーズ」の生産地は、ローヌ・アルプ地方のアン県にまたがるジュラ山脈一帯と定められている。この地方で千年以上前から作り続けられてきた熟成ハード・チーズがコンテ・チーズである。
 添加物を一切使わず、地元の原材料によって職人が長年の経験と技により丹精込めて作るこのチーズは、独特の個性と風味があり、多くの人々に愛好されているという。フランス産チーズとして現在No.1の生産量を誇っている。
 コンテ・チーズを名乗るためには、様々な規約と制限を守らなくてはならない。まず、ミルクを生産する牛はモンベリアール種(95%)か、フレンチメンタール種(5%)のどちらかでなくてはならない。牛のエサも、夏は自然の草花を食べさせ、他の季節は干し草を与えると決められている。

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 また製造過程で使われる直径3メートル、高さ1.5メートル程の容器についても、外側は現在ステンレス製となっているが、ミルクに触れる内側は必ず銅製でなくてはならない。さらに形成されたチーズを熟成させる時に下敷きとして使う木の板も、エピセアという名の松の一種の針葉樹から作られたモノという決まりになっている。
 そうした条件の下に、毎日25キロ圏内の牧場から集められた牛乳を夜のうちに12度の保管庫に収納する。そして毎朝4時頃から容器に移された牛乳に発酵を促す粒状のチーズを加え、機械でかき回してゆく。中心部にカイエというチーズの元となるものが形成されてくるので、それを管で吸い取り、型に移してゆく。一つの型で40kgのチーズができ、一つの容器から1回につき6個(240kg)できる。その時使用される牛乳の量は2700リットルであるという。

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 チーズとなる部分を取り除いた液体から、バターと脱脂した牛乳が出来る。また残った液体からホワイトチーズが造られ、年間10万個売れるという。最後に残った液は昔は捨てていたが、今は中国の業者が買って化粧品や薬、または幼児用の粉ミルク造りの材料として使用するということであった。道理で、日本に来る中国人が日本製の化粧品や薬、粉ミルクを買って帰る訳が分かる。
 形成されたチーズは最低5週間ここで熟成される。その後、場所を移され、1ヶ月、12ヶ月、14ヶ月の三段階の熟成で販売される。(仏人は12ヶ月のモノを好むそうだ。)
 各チーズには産地登録番号と日付、国名等が刻印され、30ヶ月は製造年月日が消えない。現在も、このようにして18の業者によって年間600万リットルの牛乳から480トンのコンテ・チーズが製造されている。 (つづく

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