« 市長会・蘭仏視察記 2.アムステルダムの都市政策 | トップページ | 市長会・蘭仏視察記 4.再生可能資源アプリケーションセンター »

2014年11月 4日 (火)

市長会・蘭仏視察記 3.新農業システム・トマトワールド

Europe2014071418

 ヨーロッパに到着以来、なぜかいわれなく街中(まちなか)のせわしさのようなものを感じていた我々であったが、フランクフルトの空港ロビーで見たテレビニュースと新聞の一面によってその原因が分かった。到着した7月13日は、ドイツとアルゼンチンのワールドカップ決勝の日であった。
 すでにオランダは決勝リーグから敗退していたが、隣国でもあり、欧州と南米の代表者による決勝戦への関心は高いようであった。近年は日本でもかなりのサッカー熱の高まりがあるが、それでも歴史と伝統、国民生活への浸透度という点で欧州や南米とはまだ段違いのような気がする。彼らにとってはスポーツというよりも、国の威信と名誉をかけた戦いなのである。

Europe2014071419

Europe2014071420

 サッカーのことはともあれ、我々が次に目指したのは、農業王国であるオランダの中でも特に農業が集積し発展していると言われるウエストランド市であった。
 バスの車窓から郊外に向かう間に見えてくる風景は、徐々に都会の市街地からのどかな田園風景へと移り変わっていった。この風景は長年にわたるこの国と農民達の努力の成果であると言える。
 オランダはその多くが干拓地であるため、海水を抜いて干上がった海底をそのまま耕して農地化した所が多く、土壌に恵まれず、日照時間も日本より短い。そのような悪条件の中、限られた農地面積しかないオランダが〝農業王国〟と呼ばれることになったのは、2つの秘訣があったと言われている。
 一つは、作物を都市近郊における売れ筋のものにしぼったことである。日本のように田畑を使った露地栽培ではなく、ハウスを使った施設園芸によって花卉(かき)や野菜の栽培に徹し、いわゆる植物工場として生産としている。
 もう一つは、産学官が共同して、農業というものを国家戦略の手段として位置づけていることである。
 現在、地球の人口は発展途上国を中心に際限なく増え続けており、いずれ食料不足の心配が世界的なものとなることが予想される。そのような状況の中、より少ない土地で、より少ない水とエネルギーによって高い生産性をあげる農業を実現していくことは、人類の生存と発展に不可欠なこととなるだろう。
 いずれにせよ、日本の九州ほどの大きさのオランダが、農業貿易輸出額においてアメリカに次いで世界第2位なのである。日本の農業もやり方次第なのだろう。

Europe2014071421

Europe2014071422

 私達の訪れた「トマト・ワールド」は、一面大型のハウス(日本の倍近い高さ)が立ち並ぶ一角にあった。ちょうど農業インフォメーションセンターのような感じであり、建物の中は万博のパビリオンのようなパネル展示と巨大なトマト、ピーマンの模型等が飾られていた。
 来訪者に対しては、ここで行われている独特な施設園芸の説明を行っている。さらに「トマト・ワールド」では、様々な実験的栽培と研究が行われている。現在は約80種のトマトが栽培されているが、それはあくまで研究のためである。通常の農家は一品種のトマトだけを集中して栽培し、その種類のトマトのエキスパートとして育っていくそうである。
 また、この施設は、生産者同士のノウハウの交換やセミナーにも使われている。さらに商取引のための大量買い付けに来る業者から、小売業者、一般消費者に対する販売に至るまで、すべての機能を併せ持っているという。
 ことに中高生などの見学に対しては、農業というもののイメージを再認識してもらうため、新しい園芸農業の仕組みをていねいに説明しているという。

Europe2014071423

Europe2014071424

 今日において、農業というものは、単に田畑を耕して収穫をするというだけのものではない。ICT(情報通信技術)、コンピューター関係の技能も必要であるし、商業、営業に対する知識も必要で、さらに宣伝広告も重要である。そうして組織が大きくなれば人事や金融関係のノウハウも必要となる。つまり、これからの農業は、農業ビジネスとして拡大してゆくということを伝えているという。
 そもそもこの組織は、2008年に6人のトマト生産者が同じ品種のトマトを「トミー」というブランド名で出したことから始まっている(ミニトマトを最初に生産したのもこの人達である)。その後、大きな販売組織や銀行など様々な企業が支援するようになり、現在約40社の協賛企業がある。また政府も支援するようになっている。
 まるで研究室か精密機械工場に入るかのように、白衣と白帽、靴カバーをつけてハウスに案内された我々であるが、改めてハウスの巨大さに驚かされる。日本の物の倍はありそうである。ここでは、ITを駆使して、日照から気温や湿度、植物に与える栄養素入りの水の量、二酸化炭素の濃度までコンピューター管理の栽培が実現されている。

Europe2014071425_2

 そうした徹底した高度機械化、合理化された環境の中で、トマトの収穫率はとても高い数字を上げている。1キロのトマトを生産するためにオランダでは4リットルの水を使用するが、スペインでは20リットル、イスラエルでは36リットル使わなければならないという。
 暖房のために要する燃料は、この国の豊富な天然ガスを使っている。発生したCO2は、養分としてプラスチックホースを通して植物の根の部分に回すようにしている。植物に与える水は、養液を含ませ、点滴のように投与される。与える量は必要とされる水分よりも少し多めに与え、残った水分は集めて消毒してから再利用するというムダの無さである。
 トマトの栽培システムとして個人の生産者は自分で苗を作ることはしない。種苗専門に育てる苗屋がおり、そこで種から30センチほどの苗を育てる。生産者はそれを買ってきて育て上げることに集中することになっている。
 トマトのプラントは下から上まで6~7メートルの高さがあり、収穫するごとにプラントを移動させていくのだという。そして空きになったプラントに再び新しい苗を植えてゆく。
 化学肥料は一切使っておらず、生物学的有機農法を行っている。害虫の発生に対しては、薬ではなく、天敵となる虫を導入し駆除にあたらせるという。クマバチが天敵として害虫駆除には活躍しているということであった。また受粉のために、マルハナバチを使うことで人件費の大幅な節約となったそうである。こうした益虫も、卵やさなぎの形でボトルに入ったものを購入してきて育てて使うという。ITとコンピューターを駆使した管理を始め、非常に工業化されたシステムのあり様とムダの無さ、さらに安全管理にまで目配りのゆき届いたあり方に、農業に対する考え方を再認識する大変良い機会になったと思っている。
 生産物は、その国の消費者の味覚にあった品種を選別して生産され、イギリス、ドイツ、北欧、東ヨーロッパの国々へ輸出されている。
「アメリカは農産物の輸入規制がすごく厳しく、日本は新鮮な産物を安く届けるにはちょっと遠すぎますネ」というのが最後のコメントであった。 (つづく

Europe2014071426_3

|

« 市長会・蘭仏視察記 2.アムステルダムの都市政策 | トップページ | 市長会・蘭仏視察記 4.再生可能資源アプリケーションセンター »

市長会 蘭仏視察記」カテゴリの記事