市長会・蘭仏視察記 4.再生可能資源アプリケーションセンター
私達が次に訪れたのは、アムステルダムの北東にあるレディスタット市の国立アクレス研究所(Applied Centre for Renewable RESources。略称ACRRES)であった。ここは、本来、動物と植物科学を研究するワーヘニンゲン大学の別個の研究施設であったのだが、その二つを合併させて、新たにアクレス研究所として設立したのである。
このあたりも、かつては水面下4~5メートルであった所であり、「ここは、私達が海の中に人工的につくり出した土地です」と紹介された。
当初、私は、オランダの干拓もセントレア(中部国際空港)の建設と同じく、周囲を壁で囲むように埋め立てた後、その中の海水を外へ排出しながら中を埋め立てていくものと思い込んでいた。ところがこちらの方式は、ぐるりを埋めて囲ってから中の海水をポンプで汲み出し、塩分に強い葦(あし)などを植えて土壌改良をするものの、そのまま海底だった所を耕して農地にしてきたのだそうである。「そんなことで農地になるものか」と驚くばかりであるが、オランダは土地が少ないだけでなく、山も少なく運んで来る土も無いのであった。その点がはっきりしてようやく、子供の頃絵本で見た「少年が堤防にできた穴を手でふさいで、友達が大人を連れて来るのを待った」という物語の本当の情景が理解できたような気がした。
現在のアクレス研究所の役割は、大学の研究内容を応用、実用化するための橋渡しと、民間企業の新規計画の実用化実験を代行するパイロット事業である。具体的には、太陽光・風力発電などの新エネルギーの研究や再生資源を実用化するための各種実験やテストを行っている。
オランダ政府は、2020年までに持続可能エネルギー(自然エネルギー)を全体の20%に拡大する目標を掲げており、そうした新エネルギー源の開発、再生利用、資源の活用研究に力を注いでいる。2014年現在において達成率は2%弱であり、目標値は高く、実現への道のりは険しそうである。
オランダ政府は同時に2020年までに温室効果ガスの排出も、対1990年比で30%削減するという目標も持っている。
現在アクレス研究所の保有する風力発電機(新型風車)は26基であり、その電力を電力会社に販売した利益が研究所の基礎収入となっている。併せて風力発電機のメーカーからは、発電機の騒音問題や、高さ200メートルに及ぶ新型風車の機械的な負荷などの改善対策についても依頼されているそうである。
「日本では低周波や騒音に対する苦情や反対運動のために設置場所に苦慮しているが、こちらではそうした問題はないのか?」という私の質問に対しては、「設置場所が人家からある程度離れた畑の中であることを説明し、苦情を言って来た方に風車の投資家になって頂き、利益の配当を出すシステムをとったところ、苦情はなくなりました」との答えであった。(やはり「最後は金目」とは言えないだろうが・・・)
またオランダと言えば酪農の国でもあるが、大量に発生する牛のふん尿や農産物の副産物である残余物などの廃棄物を使って、そこから発生するバイオガスすなわちメタンガスと二酸化炭素そして熱を有効活用しようという研究も進められている。
現地にあるダイジェスターという直径10メートル、高さ5メートルほどの消化棟では、こうした廃棄物を発酵させ、メタンガスを造り出している。商品化するにはまだ小規模な段階であるが、普通のパイロット事業よりも大がかりなものであるという。
この中には畜舎から集められた牛ふんを毎日6トン、さらにメタンガスの量を増やすために同じく6トンの農業廃棄物が投入されているそうだ。そしてこれらが中で混合され、40~60日の間でバイオガスに変化していくのである。
計算上では5頭分の牛の1年間のふん尿で、乗用車一台分のメタンガス燃料をつくることができるという。これで小さい車なら年間4万キロは走ることができるそうである。
研究所内にはメタンガス・ステーションも設備されていた。
最後に見学してきたのが、水藻の一種であるアルゲの研究施設である。先程の施設から輩出される熱と二酸化炭素を使って、アルゲの増殖ラインが作られていた。
アルゲを育てるための養分として、リン酸と窒素成分が必要とされる。その二つの成分も牛のふん尿の中から取り出して使用しているという。
そしてこのアルゲを使って燃料を作ったり、動物の栄養剤、人間の栄養剤、さらに各種添加剤を作ったりするそうである。
少し前、世界中で穀物(主にトウモロコシ)を原材料としたバイオディーゼル燃料の開発と実用化がブームだったことがある。ブラジルなどでは専用スタンドができ実用化され、アメリカにおいて実用化の動きがあった。そのため一時、世界的に穀物相場にも影響が出て、パンが値上がりしたり、開発途上国の食料需給が心配されたりしたこともあった。その後あまりニュースにならなくなっていたが、製造単価が原油に比べ割高となり、一時のような熱狂は冷めたようである。
そのブームだった頃、アメリカの「ナショナル・ジオグラフィック」誌でも取り上げられていたのが、水藻を原材料としてバイオディーゼル燃料とする方式であった。こちらの方が効率が良いという研究発表が当時アメリカでなされていたことを記憶している。この件については県議会の委員会で質問したため覚えている。
しかしながら、今回現地で説明されたアルゲによるバイオディーゼルオイルの評判は思ったほどではないようであった。燃料としてのカロリーが高くなく、苦労して製造しても安い値段にしかならないそうだ。逆にそのオイルの中の成分に薬用に適した成分が含まれていることが分かり、現在はそれを取り出して商業化する試みに主眼が置かれているそうである。
現在当地で行っている人造の池やリアクターを使ってのアルゲ栽培の方式に対し、多くの企業が関心を持ち、共同出資をして研究を進めているという。屋内栽培がいいのか、屋外がいいのか、またアルゲを食用とする生物が繁殖してきた場合どう対応するかなど、フィルターによる対策も含め、研究中とのことであった。
私が「日本の鯉の養殖池に似てますね」と言ったところ、「鯉の養殖の方が儲かると思います」という答えが返ってきた。
終わりに施設の外側に設置してあるソーラーパネルの説明があった。ここでは三つのパターンで実験が行われていた。
第一は固定設置された普通タイプ、第二は東から西に向けて一日かけてゆっくり向きを変えるタイプ、第三は太陽の位置を性格にとらえて常に直角に光を受けることができるタイプである。結果は当然ながら、第三のタイプが一番良い成績であるが、設置費用がかさみ、商業ベースに乗るものとはなりそうもないようである。
何ごとにも先進的な取り組みをしているオランダではあるが、町の風格や伝統を重んじるアムステルダムの市内において太陽光発電や風力発電の風景にはお目にかからなかった。やはり場所によってその機能を使い分けるということも、これからのまちづくりやエネルギー対策には必要な智恵であるということだろうか。
今日もなおアムステルダムの運河の近くには、かつて国土を守るための水揚げ動力として、あるいは産業動力として働いた古い風車がモニュメントとして、点在している風景が見られるのである。
(なぜオランダでは運河や川の水流を利用した水力発電を実施しないのかということを聞き忘れてしまった。たぶん利用効率の問題だと思う。) (つづく)
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