インディアナ大学同窓会 in 岡崎
青年期のアメリカ留学は、私の人生で大きな転機となった出来事の一つである。それまでの私は自分の好きなことしかあまり熱心に取り組んでこなかった。高校時代は自省的・内向傾向に陥り、今でいう引きこもりに近い状態であったこともある。
そんな私が自分から手を挙げて積極的にアピールしていかなくては認められない世界に放り込まれ、生きているうちに自分を変質させ、あるいは本来の自分を取り戻すことができたような気がしている。
今手元に、戦後まもなくから最近までのインディアナ大学の日本人留学生650人あまりの名簿がある。目を通すと、そこに私の名前があることが恥ずかしいくらい立派な経歴の方々が並んでいる。一流企業の重役、大学の学長・教授になられた方々、研究者、ベンチャー企業の社長、あるいは国際的な音楽家などの各分野の専門家も多く、政治畑にいるのは私くらいのものである。
毎年6月に東京の富国(ふこく)生命本社の会場をお借りして同窓会が開かれている。同社の小林喬元会長が同窓生であり、その御好意により続けられているものである。私も一、二度出席させて頂いたことがある。毎年講演会やパーティーが行われていることは知っているが、6月は議会のある時期でもあり、私のような職業の地方在住者にはなかなか出席が難しかった。
ところが、先年私が市長に当選したことを知った有志の方々が岡崎で同窓会を開いて下さることになった。双方の都合で、11月下旬の日程となったのであるが、なにせ年末に向けてそれぞれ多忙な時期であり、最終的に参加者は8名となった。かく言う私自身、昼食会にしか参加することができなかった。もうすでに35年程前のことになるのに、かつての仲間や先輩方と昔話に花を咲かせる楽しい時を過ごすことができた。
名古屋に本社のあるキムラユニティー株式会社現社長の木村幸夫氏は、インディアナ大学剣道部の創始者であり、私の前任の日本人会の幹事であった。勉強以外の様々な活動に携わるきっかけを与えて下さった恩人である。剣道だけでなく料理も教えて頂いた。後に私が一人でアメリカ大陸を長距離バス(グレイハウンド)で一周したり、南米のアマゾン探険の旅に出かけたりしたのはこの人の影響でもある。
アメリカで剣道修業というのもおかしなものだが、ハワイ出身の有段者の日系人や物好きなアメリカ人学生を引き込んで、木村さんの弟の昭二さんと2年間剣道部を引き継いできたものだ。
現・同窓会会長の服部恭典氏は、時計の服部セイコーの一族の方であり、私はイトコの方と「アイゲマン・ホール」という14階建ての学生寮で生活していた。
副会長の小幡恭弘氏は現在、東京で公認会計士を営んでみえる。奥様には日本人会でパーティー等を行う時によくお世話になったものである。
二村幸男さんは現在、名古屋でライフ・メディカル・アセット・デザイン研究所の所長をしてみえる。
そして浜松からみえた伊藤元美さんは、在米中会社経営の経験もあり、現在は帰国して弟さんの会社の顧問をされているという。皆さんそれぞれ多様な人生航路を送っておられるようだ。
当時私達は、ふだんは広いキャンパス内にバラバラで生活していたが、日本人会でパーティーをやると何十人も集まったものだ。試験明けに公園でバーベキュー大会を開くという情報が伝わると、アメリカ人や外国の留学生まで集まってきて100人を超えることがあった。こうした準備はなかなか大変で、前日の夜、翌日の天気予報と参加人数を確認してから、生鮮食品のバーゲン・タイムを狙ってスーパーに買い出しに出かける(しくじると全部自腹になってしまう)。その後の味付けや調理の準備もけっこう大仕事であったが、今となっては集団マネージメントの良い経験となっている。
かつて『Breaking Away』(邦題ヤング・ゼネレーション)という映画が全米でヒットしたことがある。その舞台となったのがインディアナ大学ブルーミントン校である。校舎があったのは緑の田園地帯の真ん中にある人口3万人ほどの大学町であった。
映画は大学生と地元の青年達との恋のさやあてと、インディ500マイルレースを真似た「リトル500」自転車レースの物語である。私達は自転車ではなく、休みになると近くの牧場へ20人くらいで繰り出して、団体割引の交渉をして馬に乗っていた。日本の牧場のように同じ広場をぐるぐる回るのではなく、丘や森の中を小川が流れている広大な敷地を馬で走り回るのは実に爽快な気分だった。近くにはヨットに乗れる湖や安価なゴルフコース(10ドルくらい)もあった。
そう書くと遊んでばかりいたようであるが、ふだんは試験とレポートと膨大な量の課題図書の読破に追いまくられる毎日であった。(今こんな文章を書いているのも、その時の習練のおかげであると考えている。)
当時、日本人会の幹事として様々な体験をしたことが自信となり、それが今日までつながっているのだと思う。そんな機会を与えて下さったすべての留学生仲間と両親に今はただ感謝あるのみである。
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