初の人事異動と佐藤栄作
4月となりいよいよ新しい年度が始まった。昨年市長職に就いてから初の新年度予算の編成と人事異動をおこなった。そして4月1日には、192人の新しい職員を岡崎市に迎えることになった。私の一番下の子供と同じ世代の人達が実社会に飛び込んで来ることに、何か不思議な思いにとらわれている。それだけ自分も年を経たのである。今回の彼らの入庁によって、私は初めて後輩ができたことにもなるのだ。
この度の新規採用職員は、一般行政職58人、消防職15人、保育教育職21人、医療職98人の計192人である。まだ初々(ういうい)しい感じの彼らが、一日も早く貴重な戦力となることを期待している。
今回同時に昨年より107人多い、863人の人事異動もおこなわれた。発表は突然ということになるが、昨秋より本人の希望も確認しながら個別の取得資格を基準の上に移動の基本計画は準備されてきた。新市長の政策変更に基づく庁内の機構改革と個々人のこれまでの経歴、実績を踏まえ、幹部、OB、各業界、庁内での上下の評判まで加味しながら、部長級、課長級、主幹、等々と順番に適材適所の原則を念頭にパズルのコマを並べるように人事のプランが練り上げられていった。
古い話であるが、佐藤栄作元総理は、役人であったときからすでに「人事の佐藤」という異名があった。人事配置、人事のバランスをとることで組織の機能を十二分に発揮させる名人であったと言われている。
一番有名な例が、総理になった翌年の第1次改造内閣の組閣時(昭和40年)に、大蔵省出身の切れ者、福田赳夫氏を財政金融の要の大蔵大臣にすえ、党務の中心の自民党幹事長に党人派の若き実力者、田中角栄氏を配したことである。経歴も性格も対照的なライバル関係の二人をそれぞれの得意分野で競わせて、強力なる自民党の政治体制を構築していったのである。この当時は今のように、選挙向けの広告塔として、有名人というだけで若くて実績の無い議員を大臣に起用することはなかった。今よりも学歴偏重の時代において、小学校卒で30代で郵政大臣になり、47歳で党幹事長になった田中氏はずば抜けた政治力の持ち主であったと言える。
長州出身(山口県)でありながら、よく徳川家康にたとえられた佐藤総理は、7年8か月に及ぶ歴代最長の政権運営を果たした。その後、福田・田中の両雄が覇権を巡って角・福戦争を始め、「三角大福」(三木・田中・大平・福田)に中曽根を加えた自民党・戦国時代の幕開けとなるのだ。私が秘書をしていた安倍晋太郎(現総理の父)や竹下登・中川一郎の面々がまだニューリーダーと呼ばれる前のことである。
一人長期政権の結果、派閥対抗政治の原因を作った感のある佐藤氏を批判する向きもあるが、人事を考える上で「政治の要諦は人事にあり」と看破した佐藤栄作という人は慧眼であったと思う。
今回、初めての経験でもあり、様々な人の意見を拝聴しながら何度も手直しをしながら組み上げた人事案であるが、内示の時期を迎え、職責分野ごとに個々に辞令を発令していった。これだけ慎重に手順を踏んできたはずであるが、個々の反応は様々であった。
ほんの一瞬のことであるが、昇級・昇進に笑みが浮かぶ者、一生懸命に喜びを噛み殺している者、昇格したものの配属が気に入らないのか仏頂面を隠さない者、「また同じ所か!」とガッカリが目に出る者、等々それぞれの性格、人生模様の一断面が見てとれた。「さすが!」と思ったのは心の内をけぶりにも見せずに無表情で辞令を受理してゆく者が多かったことである。この点、公務員という人々はよく訓練されているものだと感心した。
役所において、人事と昇給がモチベーションの源泉であると言われているが、今回自らが関わった初めての人事を経験してそのことをより一層強く認識することができた。
私自身はどちらかと言うと、ポストにあまりこだわらない方であった。県議の時、立ち回りもヘタだったせいもあるが同期で一番若くもあり、ポストの選択権は後になることが多かった。しかし人生とはよくしたもので、希望のポストが必ずしも自分に向いているとは限らないし、やってみたら意外とつまらない仕事だったこともある。また望んでいなかったポストで想定外の勉強ができたり、貴重な人脈ができたりということもあった。「人間(じんかん)万事塞翁が馬」ということわざの通り、とかくこの世はままならぬが、そのために結果オーライとなることもある。希望のポストに就けた人は油断なく、そうでない人は次のチャンスのため現在の持ち場でベストを尽くしてほしいと思う。
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